columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

5月01日, 2021年

ミツバチはどうやってハチミツをつくるのか その2

 一つの貯蜜巣房を花蜜で一杯にするまでには,花蜜採餌蜂は何回も花と巣を往復しなければなりません.

巣房に花蜜が貯められると,巣の中で働くもう少し若い蜂が羽を動かして空気の流れを起こし,花蜜中の水分を蒸発させて,蜜の濃縮を進めます.一般にハチミツは花蜜より75%濃度が濃くなっていますから,巣箱の中でミツバチはかなりの水分を飛ばすために働き続けているのです.

熱心に濃縮仕事に取り組んだかいがあって,濃厚なハチミツが完成したと認めると,ミツバチはその貯蜜巣房に蜜蓋をかけます.

ミツバチは自分がたべるだけでなく,巣にいる仲間の若い蜂や幼虫のために,また花の少ない季節や冬に備えて多量のハチミツを巣の中に蓄えます.私たちはその蓄えの一部を巣から取り出して,おいしくたべているのですね.

蜂がどんな花に行って花蜜を集めてきたのか,その花の種類によって,できあがるハチミツの色や味などが変わります.科学者の研究から,一匹のミツバチが花蜜を集めにでかけたとき,たいていは一種類の花を次々に訪れることが多いとわかりました.商業養蜂家は特定の花蜜がメインとなったハチミツ(単花蜜)を生産するために,採蜜する蜂群が目的の花を訪れるよう,色々な条件におおいに注意を払って管理します.

現在ミツバチは厳しい状況に置かれています.人間の過大な経済活動から地球環境が変化して,ミツバチの生息に適した自然環境は減少しました.地域の環境に根ざした多様な植物が生育し,色々な花が次々咲いていく豊かな森にいる野生のミツバチの暮らしと,現代の効率的な養蜂形式はかなりの違いがあり,ミツバチの健康を脅かすものが出てきました.科学者は脅威の原因を見極め,その対策を立てようとしています.

ミツバチがいなくなったら,ハチミツがなくなるだけではありません.多様な農作物の生産のためにも,彼らは花を訪れて,花粉媒介をしています.今日では,大部分の野菜,果物,そしてキャノーラやアルファルファなど油量作物,牧草類の種子生産にもミツバチの働きは不可欠なものになっています.