columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

8月25日, 2022年

気温42℃で雄蜂に緊急事態 その1

 地球温暖化の影響で,これまでにないほどの熱波が各地を襲っています.ミツバチは変温動物ですが,コロニー全体がひとまとまりの超個体として働き,巣の中心部の温度を一定に保ちます.しかし,周囲の気温があまりにも高くなると私たちと同様にミツバチにも深刻な影響がみられ,熱波の高温が雄蜂を死に追いやることが報告されました.

写真は雄蜂の熱中死に気づき、最初にマカフィー博士に通報したBC州の養蜂家エミリー・ハクスレーさん撮影.

 ミツバチの健康を研究テーマにするカナダ,ブリティッシュコロンビア大学(UBC)の博士研究員,アリソン・マカフィー博士は2020年に,高温によるショックを受けた女王蜂の体内には5種類の特異なタンパク質があることを見つけ,この女王蜂にあらわれる変化を高温障害の指標にできると考えました.

 さらにUBC研究チームは2021年の夏にカナダ西海岸を襲った熱波から,ミツバチが対応できないほどの高熱に曝されると,恐ろしい死に直面することを確認しました.雄蜂の腹部から生殖器が反転して押しだされ,死んでしまうのです.

 異常な高温下では雄蜂の体が激しくけいれんし始め,それにより腹部全体を占める大きさの生殖器が反転して体外に射出され,そのショックで雄蜂は即死.ミツバチはその体温を35℃に保とうとしますが,それが42℃にまで上昇してしまうと6時間以内に雄蜂の半分がこうして死んでしまうことが実験から判明しました.

 このニュースをこの夏に熱波に襲われた英国で,地下鉄の無料情報誌がややセンセーショナルなトーンで配信しました.しかしUBCはすでに養蜂家向けの緊急情報としてことし2月にこのニュースを公開し,酷暑対策の準備を促していました.養蜂家なら多数の雄蜂がDCA(雄蜂集合場所)に集まって飛び回り,飛来する未交尾女王を追いかけることと,めでたく交尾に至った雄蜂のきびしい運命についてはよく知っています.ただミツバチの命を次世代に引き継ぐための大切な営みが本来とは全く異なる状況で,高温によって引き起こされるという新たな事態は大いに憂慮すべきで,夏期に巣箱をどこに置くのか,養蜂家の慎重な配慮が求められています.