columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

7月16日, 2021年

ミツバチは水も巣に運び込む その1

 働き蜂が日齢を加え,採餌を担当する外勤蜂になったときに,巣に運び込むものは4種あります.ハチミツの素である花蜜,ミツバチの成長と健康に不可欠な花粉,巣内の衛生を保ち,巣を補強するプロポリス,それに水です.花粉とプロポリスは後ろ脚の花粉かごにまとめて運び,花蜜と水は口吻で吸い込み蜜胃に貯めて帰ります.

 花蜜,花粉,プロポリスに比べると目立ちにくいのですが,ミツバチの暮らしに水が不可欠なことは,ほかの生き物の場合と同じです.さらにミツバチのユニークな暮らし方ゆえの,特徴ある使い方もしています.

 水分がなければ,ミツバチが自分の体を維持するために食料を食べ,体内で消化吸収し,代謝することができません.また若い仲間を育てるためにも,つまり孵化した幼虫にワーカーゼリーを与え育むときに,育児蜂は多くのハチミツ,花粉と水を消費しています.さらに社会性昆虫であるミツバチがコロニー内の温度と湿度を一定レベルに保つためにも,水は活用されます.

 ミツバチには一年を通じて,頼りになる良い水資源が必要です.暑い夏期にも枯れない水場,そこを訪れる蜂が溺れない良い足場があり,ほかの家畜やペットと共用ではない水場がほしい.隣の庭で子供が遊ぶビニールプールにミツバチが通い始めたら,問題ですよね.はじめの2枚の写真は3月上旬に撮影しましたが,多数の蜂が炭を入れた皿の水を集めに来ています.春先には巣内で産卵・育児が再開しますので,給餌用や自分たちの活動のエネルギー源として前年に貯めたハチミツを水で薄めて盛んに消費する時期です.水場は視覚でなく匂いで見つけるので,この蜂たちは炭の匂いと関連付けてこの場所を覚えているはず.さらに炭はミツバチが安定した姿勢で吸水できる場も提供しています.適当な足場がないとミツバチは水に落ちてしまいがち.仲間がその蜂を助けようとしてさらに水没する危険があります.

 こちらの写真は2006年3月に西オーストラリア,パースで開催されたアジア養蜂研究協会AAAの見学旅行で,乾燥したユーカリ林内の蜂場を見学したときのもの.周囲に良い水源はなく,1トンの水が入るコンクリート製の貯水槽が置かれています.ミツバチの足場として内径より少し小さなスポンジマットが水面に浮かび,水の急速な蒸発を抑えていました.蜂群を運ぶ大型トラックには給水タンクが装備され,蜂場には蜂群とともに水も運びます.