columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

10月24日, 2021年

地球各地で極端な気象現象発生  その2

米国西海岸では近年,降水量が非常に少なく,とりわけ本来降雨の多い冬の乾燥が厳しい年が続いたため,カリフォルニア州当局は農業生産者への水供給を制限しています.また西海岸のワシントン州,オレゴン州でも昨年,今年と山火事が発生し,燃え広がっていきました.気候変動により前例のない熱風と干ばつが合わさって,消火活動はこれまでになく困難になっています.

写真はオレゴン州立大学が伝える火事の被害を受けた蜂場の様子です.上では仮の避難場所にも危険が迫り,さらに蜂群を緊急に搬出する地元養蜂家の映像.下の写真では形を保つ一組4箱以外の巣箱がすべて燃え尽きています.

カリフォルニアでは数年続いている水不足により,アーモンド,フルーツ,豆類など地域の代表的農作物の生産が厳しくなっています.多くの作物はミツバチのポリネーションに依存しており,早春のカリフォルニアで膨大な需要があるアーモンドの花粉交配は,世界最大のポリネーションイベントと称されるほどです.これに間に合うように蜂群を建勢することは.養蜂家の年間収入に大きく関わる一大事になっています.

 世界で消費されるアーモンドの80%がカリフォルニア州で生産されています.アーモンドミルクなど,動物性食品の代替となる製品の需要が高まり,アーモンドの市場規模は15年間で倍増しました.でも,1粒を生産するのに約4リットルの水が必要とされ,水不足に悩む米カリフォルニア州では,地下水をくみ上げる過度な灌漑が批判の対象になっていました.

先に,アーモンドの生産高が新記録になるだろうとの予想が出ていましたが,その見込みは縮小されました.農業用水の不足とアーモンド生育期間中の異常高温が原因です.水をもらえず枯れたアーモンドの木が山積みされる農園の写真もあります.現地の大手生産業者が米国の公共放送ラジオに語っています:「アーモンド農業は以前ほど儲からなくなってきた.世界に出回るアーモンドは減っていきそうだなあ」.予想される農地利用状況の変化によって,米国の商業養蜂業界がうける影響は深刻なものになりそうです.