養蜂と一般的な家畜飼育との大きな違いは,巣箱で飼われていても,ミツバチが自由に外に飛び出していけることでしょう.厩舎から一歩も外に出ることなく,毎日与えられる飼料をたべて育つ牛の暮らしと比べてください.手近な給水場所が用意され,蜜枯れ時期に糖液給餌を受けることもありますが,基本的にミツバチは巣の周囲の自然環境から自分たちで花粉と花蜜を集めて暮らしています.
だから地域の環境変化には大きな影響を受けやすく,経験豊富な養蜂家でも,毎年変化する情勢に一喜一憂するわけです.
英国の養蜂雑誌Bee Craft 2021年10月号で編集長が,今年はこれまでのところ,北半球の多くの養蜂家にとって難しい年だったようだと伝えました.
トルコ西部の地中海沿岸地域とギリシャの多くの島々,イタリア,スペインそれにアルジェリアでは高温と乾燥から山火事が次々発生して,多数の蜂群が失われた.
ギリシャ,エヴィア島のある養蜂家は,飼養する130群のうち80群を失ったと,フランス24テレビで話していた:「私は10歳の時からミツバチを飼ってきました.もう以前のような養蜂は私の代にはできません.ここの松林が元に戻るまで,とても私は生きていられない.50年はかかるでしょう,仮に松が復活するとしてもね.」
エヴィア島の松林はギリシャの甘露蜜の40%を生産しているとのこと.ギリシャの首相は,大規模な山火事の消火活動がうまくいかなかったことを公式に陳謝し,消失した松林は全域を再び植林することを約束,アッティカ(アテネ周辺地域)とエヴィア島に対して£4.2億(GBP)の総合援助予算を承認した.
一方,フランスでは今年の7月,8月に低温と長雨が続いた.約7万名の国内養蜂家にとって,今年は暗黒年となった.冷たい雨ばかりの夏でハチミツはほとんど収穫できず,国の緊急援助を求める声が上がっている.多くの地域で生産量は例年の半分以下にとどまると報告された.
英国では北部,とくにスコットランドの今年の養蜂状況は良好,あるいは格別良好である.一方南部では,地域によりばらつきが見られ,収穫がゼロとなっている養蜂家もいると聞いた.
写真はトルコ西部,エーゲ海沿岸部に広がる松林で,アリマキやカイガラムシの甘露をミツバチが集めて作る甘露蜜を収穫するための蜂群と,松のイラスト入りラベルで販売されている甘露蜜です.甘露蜜はヨーロッパの寒い方でも伝統的に生産されて,人気があり,トルコからEU圏に大量に輸出されます.