columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

9月16日, 2021年

水とミツバチの食べ物 その2

蜂児だけでなく成蜂も水が必要です.成蜂の食料はハチミツ(エネルギー源)と花粉(そのほかの栄養源).水分の主な供給源は花から集めた花蜜なのですが,花蜜の水分を飛ばし,濃縮が完了して蜜蓋をかけられた貯蔵ハチミツを食べるためには,まず水で薄める必要があります.巣房内で結晶したハチミツの場合は,水で溶かしながら取り出すことになるわけで,なおさらです.

写真は女王蜂を大量に育種生産するトルコ南部にある蜂場のヌックス巣箱.貯蜜巣板のほかに砂糖を水で固めたフォンダンが入れてあります.

 

 

トルコでは優良なコーカシアン系統の女王蜂を大量に供給し,国内で飼育されるミツバチを優良な品質に統一しようとめざしています.

アジア養蜂研究協会の大会がトルコ南部アンタルヤで開催され,見学旅行でここを訪問しました.草原には何千ものヌックス巣箱が並んでいました.

冬が終わらないうちに女王蜂が産卵を始めたら,蜂は巣箱内の壁面に付いて比較的温まっている結露をまず集めます.しかし成育中の蜂児がしだいに増えていくと,かれらに十分給餌するために必要な水分が,内部の結露だけでは足りなくなります.

こうなると水採集蜂は冷たい外気の中に飛び出して行かざるを得ません.しかし気温が10℃以下のときに,ミツバチが無事に巣箱に戻れる可能性は低いでしょう.あまりにも外が低温で,巣箱から飛び出せない場合,コロニー内では水不足が原因で蜂児の生育が停まります.巣箱内の給餌器に糖液をいれても,蜂球から遠い巣箱の端で冷え切った液体を飲んだ蜂は低体温になって動けない.そんな状況が改善されずに続けば,最終的にはすべての蜂が,貯蜜はのこっていてもそれを利用できなくて,死んでしまいます.

上の写真はヌックス巣箱の蜂児巣板.

また,水を探しに飛び出した採集蜂は,見つけた水源の品質を吟味することなく,持ち帰ります.その水は新鮮,安全でしょうか.蜂病に感染,発症しているほかのコロニーから来た蜂もその水場に来るのなら,健康なコロニーの水採集蜂が蜂の病原菌や有害敵を自分の巣箱に持ち帰る危険があります.また人間が散布した殺虫剤が地面に落ちて,朝露を汚染し,それが水を待つ巣箱に運び込まれるかも.

いつもの水源が,夏ならば干からびて,冬なら凍り付いて,水が取れなくなるのは大問題です.巣箱のそばに良い水場がつねに用意されていれば,危険を最大限避けることができます.

左の写真の上の方に灰色の巨大な雨樋のような用水路が見えています.蜂場に近く,水採集蜂が行きそうですが・・・

 

 

 

近寄ってみると,水の流れがかなり速く,蜂が水面に近づけるような足場もないので,蜂は全く来ていませんでした.蜂場内に別の水場が用意されているのでしょう.