columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

2月11日, 2019年

施設園芸の花粉交配 イチゴ その2

  2015年イチゴ生産高は全国で158,700トン.都道府県別では栃木県24,800トン,福岡県16,000トン,熊本県10,900トンがトップ3です.
 最近,イチゴは冬の果物として扱われ,本来の季節(5~6月)が忘れられがちですが,11月から出荷されるようになったのは,ミツバチが温室内で花粉交配を助ける現在の生産技術が開発された成果です.

イチゴはバラ科の多年草で,春に株から花枝が伸びて白い五弁の花をつけ,初夏の頃に花床が赤く肥大し,表面に種子を多くつけた果実をつけるものです.昭和40年代前半に休眠打破技術が開発され,2月に出荷できるようになりましたが,奇形果や不受精果が大きな問題として浮上してきました.イチゴのツブツブひとつひとつがタネです.ミツバチがいない,あるいは少ないと,受粉できなかった花にタネができず,その部分はホルモンが出ないので,果実の発達がわるくなって奇形果になります.
 昭和40年半ばに,ミツバチが働くハウスでは上質な実が多くできることが知られて,施設への花粉交配用ミツバチの導入がすすみ,状況は一気に改善されました.福岡県の調査(S46年)ではミツバチのいるハウスのイチゴは正常果が蜂なしハウスの2倍に増え,奇形果は1/3,不受精果は半分に減りました.栽培の手間がへり,イチゴの成熟日数は短縮,生産性が高まり,栽培面積がふえました.今日ではクリスマスにも十分間に合う出荷態勢がととのい,真っ赤で大きなイチゴがデコレーションケーキを飾ります.
 ミツバチはイチゴを通じて栽培農家を大いに助けました.イチゴ栽培農家も養蜂家からミツバチを借りること,ポリネーション用小群を買うことにお金を払うのはあたりまえと思うようになってきました.