columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

2月27日, 2021年

ミツバチの生物時計  その2

 働き蜂の日齢分業はつづきます.やがて体内でロウ腺が発達すると巣づくりに参加して巣の隅々にも足を運ぶように.さらにやや明るくて寒い巣門に近いあたりにまで行動範囲を広げ,内勤蜂として外から運び込まれる花粉や花蜜を受け取り,巣房に貯蔵.花蜜は濃縮してハチミツを造ります.

扇風係になれば巣内の温度調節やハチミツ濃縮のため,飛ばずに巣門付近で羽を動かして換気にいそしむでしょう.また門番は巣仲間ではないミツバチが侵入しないように,巣門で内部に入ろうとするミツバチをチェックします.

 このころになれば巣外の世界の匂いや光り,寒さにもなじんできて,いよいよ日齢分業の最後の仕事,外勤蜂として危険の多い外界に飛び出していくわけです.花に花蜜や花粉を採餌に行くときは昼か夜かをわきまえねばならず,体内時計が必須となります.植物の開花や流蜜も時間でコントロールされており,ミツバチは訪花先で得た,ここの花は何時頃に流蜜するという情報をしっかり記憶して,翌日も頃合いを見計らって訪花します.

写真は分泌した薄いロウ片を使い,巣を造るところです.

 こちらでは内勤蜂が花蜜からハチミツへの作業中です.

アリや人間も出生時にはまだ不活発な脳内の生物時計システムを,生長するうちにしだいに確立するが,それは社会性生物として進化してきた結果手にした能力なのだろうと研究者等は云っていました.新生児から幼児へと子育てを経験した人ならきっと,昼夜関係なしの小さなベビーの世話は大人の睡眠リズムを乱し,体がとてもつらいと感じたでしょう.ベビーが少しでも早く元気にむくむくと成長して,昼間は目を覚ましていて,夜に長い時間安定して眠るようになることを,切実に願ったはずです.
ミツバチは成蜂になり立ての,ごく若い,まだ時間のリズムを発達させていない仲間が,同様に昼夜のリズムなしに成長する幼虫の世話をするという,無理のないシステムでスタートし,日齢に応じて仕事を変えながら巣外の明暗リズムの世界になじみ,生物時計を活動させていくわけです.たいへん合理的.それにしても,巣房内での生育期間が終わるとすぐに自分より若い仲間の世話ができるようになるということだけをみても,ミツバチの能力はすばらしいですね.