columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

8月27日, 2019年

都会のミツバチが集める花粉 その2

 こちらの写真は,東京都内の住宅地におかれた巣箱に花粉収集器をとりつけ,午前中数時間のうちにミツバチが持ち帰った花粉団子を集めたものです.前の写真とは違って,こちらではセイヨウミツバチは近隣の環境に咲く多様な植物の花を尋ねて,様々な色の花粉を集めています.

 米国の研究で収集された花粉の多様性は4州間で有為に差が認められ,カリフォルニア州は最も多様であり,テキサス州は多様性が最も低くなりました.全体から見ると,花粉の多様性はすべての調査地で春が他のどの季節よりも有為に高く,‘春は花’との私たちの直感をうらづけました.全米で最も多く見られた花粉源植物群はマメ科,カシ類,バラ科,そしてキク科の仲間.さらにごく限られた数種の植物群は一年を通じて花粉を供給しており,たとえば,ユーカリやヤシの花粉はカリフォルシア州とフロリダ州では常に入手可能でした.
 花粉収集器を巣門に取り付けるのは限られた期間だけなので,この花粉収集評価は包括的とはいえません.また花粉サンプルを種類別に分けて,その量を測定してはいません.しかし,この調査の結果はミツバチの年間の採餌パターンについて一定の情報を示しています.著者らはここで得られたデータを,都市計画者や庭園管理者が検討し,その地域に暮らすミツバチに必要な花粉が一年をつうじて,供給されるように植栽を選定するように,またミツバチの採餌スケジュールを考慮した,植栽への薬剤散布ルールを立案することを期待しています.
 「本研究は市街地や郊外に暮らすミツバチが利用できる花粉資源の季節変化と地理的変化について述べている.そこから私たちは初めて,開発が進んだ地域のミツバチが最もたよりにしている,いくつかの大切な植物類について包括的な状況を見ることができ,このデータは市街地環境におけるミツバチの栄養環境の研究の基礎となるだろう」と著者らはまとめました.
 必要な栄養源として花粉を集めるいっぽうで,ポリネーターとして地域の植物群へ貢献している様子も,市街地や郊外の環境においてもデータとしてまとめられたことは意義があります.何気なく述べられていますが,巣門に花粉収集器をつけると,その間巣箱内に花粉がほとんど持ち込まれなくなるわけですから,収集器をつけっぱなしで忘れたりしたら,大変な打撃.これを年間に何回も繰り返すわけです.データを揃えるために,各地で多数の養蜂家の協力をえて,はじめてこれはまとまりました.