columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

4月24日, 2023年

荒い蜂群の扱い方 その1

蜂群が大量に造巣してそれを維持し,巣房で蜂児を育て,また貯蜜していくためには大きなコストがかかります.だから少しばかりの害敵を避けるために,蜂群ごと逃げ出すわけには行きません.敵から巣を守る優れた防御システムが必要です.ミツバチと巣を狙う敵は捕食者,害獣,それに寄生者.具体的には大型動物や鳥類を筆頭に,真菌類,細菌類,拮抗する他の昆虫類などなど.とくに近隣の蜂群から飛来する盗蜂は大問題であり,痛い刺針と門番蜂の小さな軍隊など様々な防御システムと武器を準備してきました.

4月,5月と連続で英国の養蜂雑誌Bee Craft の「蜂場で役立つ技術」シリーズより,2022年8月号に掲載されたアン チルコット(スコットランド認定養蜂技術者 beelistener.co.uk)の「荒い蜂群の扱い方」をお届けします.

なぜ手を焼くほどに気性が荒い群になるのか?

刺針や営巣場所などは固定され,変えられませんが,たとえば巣門防衛行動は臨機応変です.巣の近くに害敵が多く住んでいる状況では,門番をそれに対応できるだけの数に増やします.Downs and Ratnieks (2000)による防御行動研究では,蜂群がこの行動を調整して,周辺環境の状況変化に対応することが明らかにされました.採餌できる花蜜源がほとんどないときには,貯蜜狙いの盗蜂がくる危険性が高く,蜂群は巣門で侵入者を見張る門番の数を増やします.敵と戦って門番の蜂が少し死んでも防衛線は崩れにくいでしょう.ところが流蜜時期になると巣門の守りはゆるくなり,花蜜をたっぷり集めて戻ってきたのなら別の群の外勤蜂であっても巣内入場を許すことがあります.

自然選択では適応応答が支持されます.働き蜂をコロニー内でもっとも求められている場所に適切に配置できるからです.たとえば働き蜂の役割分担では普通,外勤蜂になる前に門番の仕事に就きます.しかし実際には採餌にも出るが巣門警備もする働き蜂が多数いて,かれらは需要が大きい方の仕事に切り替えて働きます.どこか養蜂シーズン中に蜂群の行動変化に注目し,とくに蜜枯れ時期に気をつける養蜂家の行動と共通するものがあるようですね.

生来荒い亜種やおとなしさが特徴の育種系統もある

セイヨウミツバチの亜種の中には生来防御的傾向が強いものがいます.サブサハラアフリカに分布するアフリカミツバチ(Apis mellifera scutellata)は大小の害敵が多数いる環境に暮らし,コロニーを脅かすあらゆるものを即座に攻撃します.この性質から畑のトウモロコシをアフリカ象から守るために彼らは利用されるのです.数個の丸太巣箱を縛りつけたロープでトウモロコシ畑の周囲を電気柵のように囲みます.ゾウが巣箱を蹴飛ばしたら,アフリカミツバチは一斉に飛び出してゾウのやわらかい腹部を狙って刺すでしょう.巨大な獣もこれにはたまらず,痛みに鳴き声を上げながら退却していき,トウモロコシは無事に成長を続けます.

セイヨウミツバチのバックファスト系統は反対におとなしさ,扱いやすさで高く評価されています.ただしばらくこの系統を飼っていた私の知人は巣箱の内検をする間に,この蜂が巣枠でだるそうにひたすらおとなしくしているのががまんできず,もうすこしシャキッと動き回らないかと,飼養する蜂を在来の黒蜂に戻しました.