columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

1月27日, 2021年

ハチミツは咳や風邪に良く効くと確認 その3

 ではどのハチミツが良く効くのだろうなどとおかんがえですか.ハチミツは天然物であり,蜂群が周囲の環境にある植物資源から,そのときに自分たちが求めている条件にあう花蜜を集めます.近くにニーズにあう優良な蜜源があれば,花蜜採餌係の働き蜂が多くの仲間をダンスなどで誘って,その蜜を大量に持ち帰るでしょうが,他の種の花にむかう採餌蜂も皆無ではありません.一つの蜂場に置かれたいくつかの巣箱から同時期に採蜜したら,それぞれの成分は似ていても全く同じにはならないでしょう.

写真は同じくアブダビにあったサウジアラビアの有名な高級ナツメの店で.ギフトアイテムとしてハチミツも格調高く並んでいました.左からレモンとボダイジュのハチミツ.右の2本はハーブ入りハチミツで,アラブ産とは色だけでなく,傾向がかなり違いそう.

ハチミツは多様であり,複雑で異種の成分をもっています.なので,あるタイプのハチミツが咳や風邪を抑えるのに他よりも効果が高いという可能性も一概に否定はできません.しかし今回メタアナリシスで分析された臨床研究において使われていたハチミツに違いはあるにせよ,治療効果として導き出された結果は首尾一貫したものでした.このことから,あるハチミツはその他のハチミツより効果が高いかも知れないが,それ以外のハチミツでも一般的に何らかの効果を上げられるとは間違いなく言えるのです.

この研究はBMJ Evidence-based Medicineに発表され,英国のマスコミで大騒ぎされ,養蜂関係者はにんまりしたのでした.

念のため付け加えますが,英国であれ,日本であれ,コロナに対してハチミツがどうこうとは,まったく関係のない話です.

もう一言,ミツバチは巣房に貯めた花蜜に一連の濃縮作業を行ったうえで,良しとなったら貯蜜巣房に蓋を掛けます.養蜂家はこの蜜蓋を蜜刀で切り落として,採蜜機で貯蜜巣房の中身を遠心分離し,タンクに貯める.さらにフィルターで壊れた巣などを漉し取って,瓶詰めします.これが養蜂家が生産する標準的なハチミツです.国を超えて大規模に流通するようなハチミツは,自ずからその生産工程などに違いがあるでしょう.