columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

11月04日, 2019年

アピモンディア2019で見たもの聞いたもの  その2

 閉会式翌日から1泊2日の見学旅行に参加しました.目的地はモントリオールの北方向にバスで4時間ほど行った Ferme-Neuve, Quebec にある Miels d’Anicet 養蜂場です. https://mielsdanicet.com/fr-ca/
 ミツバチ研究で修士か博士を出た高い理想を掲げる若き養蜂家Anicet & Anne-Virginie Desrochers夫妻が,農薬散布のない遠隔地に10数年かけて発展させてきた先進的な養蜂場.緯度はケベックシティーと同じくらい,9月半ばですでにコートがほしい気温でしたが,Miels d’Anicet のミツバチはまだ飛んでいました.

 モントリオール郊外をぬけると人家がへります.高い山はなく,緩やかな高低.しだいにゆっくり流れる川や小さな湖がふえ,庭先にこぶりのモーターボートが置いてあるのが目につきました.カナダ北方の辺境地域では氷河の溶けた真水が多数の湖を作り,土地は栄養のない砂,集約的農業には不向きです.紅葉が始まっていましたが,野の花も多少残って,みつばちが好きそうな耕作されていない草原や落葉樹がいくらでもあります.
 舗装された良い道路ですが,集落はごくわずか.4時間のバス旅から解放されて,午後遅くMiels d’Anicet 養蜂場に降り立つと早速巣箱が出迎えてくれました.

 駐車場の奥に巣箱が6段ぐらいずらっと壁状に積み上げられて,ミツバチがそこで大騒ぎしています.どういうことなのか,翌日解説を聞けました.
 「うちでは約1500群飼っている.越冬用に群を縮めるため,貯蜜巣版を引き上げてきたが,貯蔵用スペースが不足していて,今は庭先に山積みしている.当然盗蜂がついて大さわぎだけれど,自分たちのポリシーとして,この地域にこれ以上建造物を増やしたくないのだ.空気で膨らませる倉庫も使っている(写真後方).屋内でやっている加工作業がすめばその器具類を片づけて,かわりに貯蜜巣版を順次収納していく」そうです.

 歩いて10分ほどの緩やかな傾斜地が女王蜂養成蜂場でした.朝からずうっと陽ざしが当たり,横手には小高い丘の森があって,蜂ならずともとても気持ちの良い場所に女王用小型巣箱がたくさんおいてありました.DCAがどこなのか,調べていないけれど,雄蜂生産をかねたちいさな外蜂場を女王蜂養成蜂場の周囲,半径2-3kmの円状に数カ所設置しているとのこと.Miels d’Anicetは女王蜂生産のカナダ国内最大手に成長し,年間約1万頭の女王蜂を出荷します.