columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

2月11日, 2019年

施設園芸の花粉交配 イチゴ その1

 昆虫が訪花し,花粉を運ぶことにより受粉が行われ,植物に実がなります.世界の食糧生産の9割をしめる作物100種のうち,70種がハナバチ類や他の昆虫の送粉サービスに助けられており,全世界で昆虫による花粉交配が寄与する経済価値は1500億ユーロに上ると推計されています.ミツバチは農業に関わる昆虫の代表.勤勉な送粉者として世界の食料安全保障(food security)に大きく貢献しているわけですね.

 ミツバチや野生のハチ類の助けがなければ,たとえばリンゴなど多くの顕花植物は,ほとんど結実できない,あるいはごくわずかな実しか実らせることができません.日本のイチゴはハウスや温室でつくられるものが大部分ですが,そのような施設園芸では全国で約4.7万群のミツバチが花粉交配に活躍しています.ミツバチの手を借りないと,実がならなかったり,奇形果になってしまうのです.
 イチゴだけでなく,ハウス栽培でつくられるメロン(2.5万群),スイカ(1.7万群)などのウリ科植物もミツバチが得意な果実です.
 1985年に国際養蜂会議(アピモンディア)が名古屋で開催されたときには,養蜂産業がはちみつ,ローヤルゼリーなどの生産により,重要な栄養素の供給源として国民の健康に寄与しているだけでなく,花粉交配による果樹,牧草などの農産物の増産にもおおきく貢献していることを認め,イチゴで働くミツバチを図柄とした記念切手が発行されました.