columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

2月11日, 2019年

施設園芸の花粉交配 その3 イチゴハウスで

 ハウスの中におかれた巣箱からミツバチたちがイチゴの花を訪れにでかけます.ミツバチは自分が食べるだけでなく,巣でまつ幼虫や他の仲間を育てるために,大量の花蜜や花粉を集め,貯蔵する性質があり,多くの花を訪れます.
 しかし閉鎖された施設の中,農作物の近くで働くことは,この勤勉な小さな生き物に多くの困難をもたらします.

 ミツバチは優れた記憶・学習能力を持っていて,良好な採餌先や自分の巣の周囲の景色を覚えて活動します.写真のような大きな施設では,地面は単一作物が生育し,側面と天井は同じような景色の連続になります.巣箱の位置が分からなくなり,帰巣できずに死ぬ蜂が多くいるそうです.飛んでいる蜂が見つけやすいよう,巣箱近くの高い位置に目印を立てると,それだけでもbee-friendlyな対策になります.
 年々栽培時期が早まって,かつては12月頃に巣箱4~6枚で働き蜂が1万匹ほどの蜂群をハウスに入れ,3月上旬には引き上げていたものが,近年では9月に蜂群導入,4月頃まで利用と長期化しています.自然状態での蜂群は越冬準備態勢となる秋には育児を減らし,冬期は採餌や育児を休止します.しかし暖かいハウスでは女王蜂の産卵がそのまま続き,働き蜂は幼虫のタンパク源として必要な花粉を必死に求めて,冬の間も飛び回るわけです.巣箱に持ち帰った花蜜や花粉はいったん貯蔵され,ハチミツやローヤルゼリーのようなミルクに加工されて,全員の共同の食べ物となります.品種にもよりますが,イチゴだけでは蜂群を維持するだけの蜜や花粉はないため,ハウスの導入するときに十分な蜜と花粉を持たせる必要があります.栽培期間が長いイチゴでは適切な管理なしには蜂群の維持が難しく,期待される花粉交配の仕事もはたせません.
 ミツバチにうまく働いてもらうために施設園芸農家に知ってほしい管理のポイントは,養蜂家サイドから提供されています.「毎年蜂群を購入するイチゴ農家の皆さんが,飼養方法をかなり習得して,いまでは上手に長期間ミツバチを活動させている」と,先日訪問した花粉交配用ミツバチ専門店の方から伺いました.こういう皆様のたゆまぬ努力のおかげで,私たちはおいしいイチゴがたくさん食べられるようになったのですね.