columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

12月26日, 2020年

北米オオスズメバチ騒動  その2

 米国西海岸ワシントン州では,農業局(WSDA)の昆虫学者達が2019年12月以降,数個体のオオスズメバチをカナダと国境を接するワットコム郡内で確認していました.越冬した新女王が巣を構え,働き蜂を増やしている危険があるので,州民の協力も得て,スズメバチを誘引するトラップ(わな)を各地に多数設置,スズメバチを呼び寄せ,その周囲にあるはずの営巣場所を何週間も熱心に捜索しました.しかしオオスズメバチがスズメバチ類では世界最大サイズであっても,その巣を見つけるのはかなり困難.その巣は土中や木の洞に作られることが多いからです.

 8月になると,トラップで雄の個体が捕まりました.来年活動する新女王も産まれる時期になったのです.営巣場所発見の確率を高めるために,WSDAチームはオオスズメバチを生きたまま捕獲し,その体に無線発信機を取り付け,蜂が帰巣するあとを目視ではなく,レーダーで追いかける作戦をたてました.極小サイズの発信器は米国農務省(USDA)の動植物健康調査サービス(APHIS)から提供されました.またUSDAの農業研究サービス(ARS)が研究開発していた,スズメバチ・アシナガバチ類を効果的に誘引する物質をつかうトラップとその設置の支援も緊急実施されました.ミツバチにとってオオスズメバチが深刻な脅威であることを日本の養蜂家は良くご存じでしょう.夏の終わりに,ほかの昆虫が減ると,ミツバチを効率的な食糧源として執拗にねらいます.仲間を呼び集団で巣箱の中にまで侵入し,数時間の内に根こそぎ奪っていきます.これが米国内に定着してしまったら,人畜に深刻な被害が出るとの懸念の大きさが,国から州へのこれら積極的な対処からも分かります.

 10月21-22日にWSDAチームはARS提供のトラップに飛び込んだオオスズメバチ2匹を生け捕りにしました.さらに数匹を捕獲し,それらに発信器をつけてリリース.そのうちの1匹がカナダとの国境,海辺のブレア市付近の樹木の空洞に帰巣するのをみごとに追跡できたのです.米国内で発見された最初のオオスズメバチの巣でした.多くの場合営巣場所は柔らかな土の中ですが,ここではミツバチの自然巣と同じように,立ち木の洞が使われていました.

 10月24日にWSDAと APHISは万全の装備を調えて,無事この樹木に営巣した群の排除を完了しました.その詳細はつぎのページでお伝えしましょう.