columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

2月03日, 2023年

今頃,巣箱の中では 1万回の給餌が再開 その1

Photo by Kathy Keatley Garvey

まだまだ寒い早春でも,ウメが開花しはじめれば,ミツバチが盛んに訪花して,ウメの実がたくさん収穫できるように,ミツバチの巣箱を梅園に置くよう依頼される養蜂家が多数おいででしょう.

ミツバチは働き蜂が女王蜂とともにぎゅっと集まって蜂球を作り,寒さから身を守りつつ静かに冬を越えます.でも早春の花が咲き出す頃になると,女王蜂が越冬中に中止していた産卵を再開.こうなるとコロニーも巣箱内の温度を上げるなど,孵化してくる小さな蜂児の育成に必要な活動を活発化させていきます.

陽射しがある暖かな時間には巣箱から飛び出して訪花し,新鮮な花粉や花蜜を持ち帰る姿が見られるようになって,蜂が無事に越冬してこんなに元気に飛び始めたのなら,今年も順調にいきそうだと巣箱の持ち主はおおいに夢を膨らませるかもしれません.ところが実際には早春のこの時期からしばらくは,養蜂の一年の中でもっとも危険が多い,厳しい綱渡りの日々になります.

 なぜなら産卵を再開したら女王蜂には毎日大量のローヤルゼリーを提供しなければなりません.越冬する冬蜂は体内に大量の脂肪体を持ち,春先にはおもにこれを使って分泌腺からローヤルゼリーを作り出します.秋の天候,採餌先や蜂群の具合が悪く,生まれてくる冬蜂に十分な栄養を蓄えさせられなかったら,あるいは春が遅く,ウメやナタネの開花が不十分だったら,女王蜂が産卵を続けるための栄養が不足してしまうかも知れません.

そしてまた,卵から生まれてくる小さな  cの字の蜂児はとんでもない大食らいなのです.何しろ孵化から6日たち,蛹になるため巣房に蓋をかけるように幼虫がアピールする頃までに,その体重は孵化後1日齢体重の1200倍にまで増加しているそうですから.