columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

6月17日, 2020年

ミツバチの栄養 その2

 花粉はアミノ酸,脂質,ミネラル,ビタミンを供給する,ミツバチに不可欠な栄養源です.
 本稿はオーストラリア,ニューサウスウェールズ州農業省が養蜂家向けに提供する情報で,extensionaus.com.au/professionalbeekeepers/home?
Somerville (2005) Fat Bees Skinny Bees – a manual on honey bee nutrition for beekeepers.に基づいています.

アミノ酸

花粉に含まれるタンパク質はアミノ酸で構成されています.ミツバチの健康を維持するには10種類のアミノ酸が必要です.必須アミノ酸:アルギニン,ヒスチジン,イソロイシン,ロイシン,リシン,メチオニン,フェニールアラニン,トレオニン,トリプトファン,バリン.植物により,その花粉中のアミノ酸の種類と割合は異なります.たとえばミツバチがよそから導入されたオーストラリアでは,植物が旧大陸とは大きく異なり,主要養蜂植物であるユーカリ類の花粉のイソロイシン含有量がとくに少ないので,注意しているそうです.

脂質

脂質の組成は脂肪酸,ステロールおよびリン脂質です.多種の脂肪酸が抗菌作用を持つことが知られています.コレステロールは蜂児の育成に必要です.特定の脂質が過剰になると,蜂児の生育が阻害され,また脂質のバランスはミツバチの学習と記憶の能力に影響を及ぼします.オーストラリアで主要な養蜂植物であるユーカリ類は,花粉中の脂質がわずか1-2%にとどまるため,補給すべく代用花粉中には脂質を5-8%含めるようです.人間でも同じことですが,バランスの取れた食事が大切なのですね.

ミネラル

花粉には最大27種の微量元素(ミネラル)の含有が確認されています.ミネラル類の濃度が高すぎるか,低すぎる場合には,蜂児の生育が阻害されるかもしれません.カリウムやリン酸塩の濃度が高いこと,あるいはナトリウムの濃度が低いことは,成蜂の麻痺病との関連が考えられています.一部のミネラルの濃度が高まると下痢を引き起こし,他のミネラルが高濃度になれば蜂に有毒になるかもしれません.もっとも大切なミネラルはおそらくカリウム,リン酸塩,それにマグネシウムでしょう.しかしミツバチとミネラル類についての研究はあまり進んでいません.

ビタミン類

これまでビタミン類とミツバチ成蜂の寿命は関係づけて考えられていません.しかし蜂児の生育にはビタミン類が必須です.ビタミンB類,ビタミンA ,それにビタミンKは下咽頭腺の発達や蜂児の生育に関係し,またジベレリン酸とイノシトールは蜂児の発達に関わっています.花粉はビタミンB類の素晴らしい供給源といえます.しかし貯蔵中にビタミンは劣化していき,12ヶ月以上保存された花粉の栄養価値は減少しています.