columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

6月17日, 2020年

ミツバチの栄養 その1

 ミツバチが食べるものは花蜜 (炭水化物) と花粉 (タンパク質) です.明解ですね.
でももう少し細かく言えば,ミツバチの健康維持に必要な栄養素はアミノ酸,脂肪,ミネラル,およびビタミン類です.それぞれについてみてみましょう.

炭水化物

花蜜を集め,ハチミツへと濃縮・熟成していき,冬に備えて貯蔵する.炭水化物はミツバチのエネルギー源です.コロニー内に食べるべき炭水化物がなかったら,ミツバチの命は数日と持ちません.近年コロニーの越冬率が低下して大きな問題になっていますが,その最大の要因は炭水化物の不足です.ハチミツであれ砂糖の給餌であれ,越冬中に蜂群が有効に使える炭水化物がなくなれば,あっというまです.ミツバチは巣の仲間から要求されれば,自分の胃にあるハチミツを独り占めせずに,口移しで分け与えます.そうして群全体が一斉に飢え死にしてしまうのです.蜜源植物の流蜜が不十分だと,蜂群は荒くなり,育児,花粉採餌,巣内の衛生行動などのコロニーを健全に維持する大切な行動が低下します.

タンパク質

タンパク質は女王蜂が産卵し,孵化した幼虫が成蜂にまで成長するために,さらに成蜂の健康にも必要不可欠なものです.タンパク質を供給してくれるのは花粉なので,ミツバチは様々な花から花粉をあつめ,それを脚の花粉篭に団子状にまとめて巣に持ち帰ります.コロニーに必要なタンパク質の量は季節や天候により,またそのコロニーがいる蜂場周辺の植物資源により変わります.花粉が含むタンパク質の割合が重要なポイントで,その多少により花粉の品質は優劣がつけられます.成分中の粗タンパク質の割合が20%以下であれば,その花粉はミツバチの食糧としては低品質なのです.高品質といえるのはタンパク質を30%程度含有する花粉です.品質の高低がどうであれ,コロニーに必要なだけの量のタンパク質を入手できないときは,深刻なタンパク質不足状態となり,その結果,蜂児の生育数は減少し,成蜂となった働き蜂の寿命が短くなります.