今日世界中で300種以上の多様なハチミツが生産されています.ミツバチが訪れて,花蜜を集めてくる花の種類が違えば,それを元に作られるハチミツもそれぞれ異なった性格を持ちます.口器で吸い上げた花蜜をミツバチは腹部にある蜜胃に貯めておき,巣に戻ると,蜜胃の中身を貯蜜巣房にはき戻します.
写真はオーストラリア北部のアボリジニのご夫婦が野生のハナバチの蜜を採集しているところです.甘い蜜を食料として,また感染症用軟こうや薬として使います.プロポリスは道具づくりや防水に活用.洞窟の壁画に使った人々もいたそうです.
花蜜をはき戻すと言っても,人間の場合と同じだと考えないで下さいね.蜜胃はいわばコロニー全体で共有する一時的貯蔵スペースで,ミツバチ自身が栄養を消化吸収する臓器とは弁できっちり仕切られているのです.
巣箱内で一連のプロセスを経て,花蜜はハチミツへと,高い酸度,高い糖度,そして強い粘性をもつ複雑な物質へと変化していき,その中では細菌が増殖できません.ハチミツ中の最有力殺菌成分は過酸化水素であることが2012年の研究で判明しました.あらゆるハチミツが,程度の差はあるにせよ過酸化水素を発生するとカーター博士は説明します.なぜならミツバチ唾液中の酵素が,花蜜からハチミツへの熟成作業中に混ざるからです.このグルコースオキシダーゼと呼ばれる酵素は,ハチミツが水で希釈されるとブドウ糖を分解し,過酸化水素を発生させます.過酸化水素は消毒薬として広く使われる物質です,
過酸化水素より強力な,ずば抜けた殺菌力を示すある種のハチミツが研究者の関心を集めました.それがニュージーランドの在来植物マヌカの花蜜から作られたハチミツ,マヌカハニーです.カーター博士によれば,マヌカハニーの抗菌活性は,マヌカの花にある化学物質,デヒドロキシアセトン(DHA)由来であり.ハチミツ中でDHAはメチルグリオキサール(MGO)となります.これは糖の一種で,望ましくない細菌を攻撃します.人類や他の生物は良く発達した酵素システムをもっていて,それでMGOを制御できます.一方細菌類はそうはいかないのです.