「ミード (ハチミツ酒) はシードル,ワイン,さらにビールと比べられることもありますが,よく考えてみれば,まったく独特な製法で造られる酒といえます.ミードとは実に幅広く多様な,ハチミツをベースにしたアルコール飲料なのです.」
カナダ オンタリオ州のミード酒造協会 OMMA が醸造する多彩なミードを Ontario Beekeepers’ Association のニュースレターが紹介しました.photo: © Sara May, Lost Meadows Meadery
オンタリオ州にはカナダの首都オタワとカナダ最大都市/州都トロントがあり,人口はカナダ最多です.その東部がケベック州,南部が米国五大湖地域に隣接し,主要観光地であるナイアガラ地域を取り囲む州南部に住民の90%以上が暮らします.
OMMA会員の醸造所も南部地域に点在(記事最後にリストあり).
「オンタリオ ミード酒造協会 OMMA が守る製法では,地元の巣箱から直送されたオンタリオのハチミツに,上質な水(と,酵母を添加する場合もあり)を加えて,ゆっくり静かに発酵させていきます.なあんだ,簡単じゃないかと思われましたか?
しかし実際には確固とした熟練の技が求められる仕事なのです.」
日本には米から造る清酒など,すばらしい醸造酒の世界があるので,ニホンミツバチを飼う伝統養蜂で,ハチミツ酒がひろくつくられたことはないようです.でも古代世界の多くの文明でハチミツを発酵させた酒,ミードが重用されました.砂糖がきわめて入手困難だった世界では,だれもがハチミツの強い甘みと,甘い酒に引き寄せられたでしょう.
ミードの基本成分はハチミツ,水,それに酵母です.ハチミツには単糖類が多く含まれており,水で薄めると発酵しやすく,ホップやブドウを入手できない時代や場所でも,ミツバチが自然界から持ち帰ったであろう野生酵母の力を借りて,アルコール飲料が作れました.ミードは世界最古のアルコール飲料とも考えられていて,中国,河南省の紀元前7世紀新石器時代の遺跡で,壷の中でハチミツ,米,果物をまぜて発酵した飲み物の痕が見つかっているそうです.
ギリシャ,ローマ,バイキング,ロシア,ポーランドからエチオピアまで,歴史のある時点でミードを飲んでいて,聖書をはじめ,アリストテレスや8世紀の古英語詩ベオウルフでも言及されています.私が愛読する英国歴史ミステリー,「修道士カドフェル」シリーズは12世紀前半が舞台ですが,ここでもミードが愛飲されています.
写真は2005年アイルランド・ダブリンで開かれたアピモンディア2005の思い出の品です.シャノン空港からアイルランドを去る前日に訪れたBunratty Castle and Folk Park で,このミードの小瓶を見つけたときは舞い上がりました.バンラッティ城はアイルランドに侵入したデーン人の拠点だったそうです.まさにカドフェルの時代.
経年でミードの色がかなり濃くなっています.