columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

9月13日, 2020年

アーモンドとミツバチ その1

 アメリカ西海岸,温暖なカリフォルニア州のセントラルバレーに広がる3千平方キロメートル以上のアーモンド農園では2月に開花が始まり,その花粉媒介を全面的に養蜂家が飼養するミツバチに依存しています.アーモンド農園は人出を省き,大型機械で効率よく作業をするために,広大な敷地に,アーモンドの木だけを育てていました.下草はすべて除草しており,アーモンドが咲く時期以外にはミツバチの採餌先が何もありません.

 秋になると,百万群以上のミツバチを米国各地の養蜂家がカリフォルニアに輸送し,給餌や投薬などの管理をしながら冬を越します.しかし長距離の移動と目的地が冬で養蜂資源がないことから,ミツバチに,とくに育児蜂と幼虫に大きな負担がかかり,養蜂家には出費と労働が冬も続くことに.
 育児蜂から供給される栄養の量と質は蜂群サイズに影響し,ひいては花粉媒介とアーモンドの生産量に響きます.アーモンドが開花する2月まで,養蜂家は特別ブレンドのタンパク質補助食糧を給餌してきました.しかし2年間の調査から,その補助食糧ではミツバチが必要とする栄養素を完全には補えていないことが判明.その上,補助食糧に含まれるタンパク質はミツバチが消化しにくいもので,約65%は未消化のまま排出されているそうです.
 ミツバチヘギイタダニの感染だけでなく,養蜂シーズン中の良好な採餌先が急激に減少したアメリカでは,ミツバチの健康維持が難しく,越冬できずに死んでしまう蜂群が近年40%にもなります.元気なミツバチにアーモンド花粉媒介を万全にしてもらえるよう,アーモンド生産者側がミツバチ支援策として,農園内に地被植物として早春のミツバチ採餌先になる植物を植える活動を始めました.