米国農務省農業研究局(USDA ARS)の研究から,ハナバチが花粉や花蜜を集めた採餌先に再度行くときに,マルハナバチに比べてミツバチの方が前と同じ花の場所に帰る割合が高いことがわかりました.
この採餌行動調査で,前回と同じアルファルファ(ムラサキウマゴヤシ)が開花中の小区画に再度飛来したセイヨウミツバチの割合は76%でしたが,イースタンバンブルビー(Bombus impatiens Cresson)の割合は47%にとどまりました.
ウイスコンシン州マディソン,農務省農業研究局広報 2023年8月24日
花への忠誠 ミツバチとマルハナバチ
マルハナバチと比較するとミツバチの方が採餌先の花にこだわり続けると判明.一方,有望な採餌先の規模がマルハナバチでは重要な判断材料でした.開花区画が大きければ大きいほど,マルハナバチは同じ場所に戻る割合が高くなりましたが,ミツバチは開花区画の規模には影響されませんでした.本研究で,大きな開花区画は縦横約13.7mx13.7mで,その中に225株のアルファルファが植え込まれました.小さな開花区画は縦横約9.1mx9.1mで植え込まれたのは100株.大区画には小区画の2倍以上の株数があります.
ある特定の場所に忠実にとどまるために,昆虫や動物は複雑な眺望の中を移動して,同一地点に繰り返し戻れる,信頼できる空間識覚が求められます.ミツバチとマルハナバチはどちらも,このような以前に訪問した採餌場所に戻る能力を発揮しています.一方で彼らが異なる特性を持つ開花区画への忠実さに示した点を見ると,この2種のハナバチはそれぞれ異なる空間評価基準をもつに違いないでしょうと,生態学者のヨハンヌ・ブルネットが語ります.ブルネット博士はウイスコンシン州マディソンにある,USDA ARS野菜作物研究ユニットでポスドク研究員のファビアナ・フラゴソと共に本研究を行いました.
「この開花区画への忠誠度合いの違いは,マルハナバチがミツバチよりも新たな採餌先を探索しがちな行動傾向の結果かもしれません.個体がそれぞれ採餌先を探していて,1回の探索中に複数タイプの花を訪れることも多いのです.ミツバチの方は巣仲間との高度な情報伝達システムが,つまり有名なダンスがあります.ミツバチの採餌蜂は有望な訪花先を見つけると,帰巣後に尻振りダンスでその場所を他の採餌蜂に伝えます.でもマルハナバチにはそのような手段はないのです.マルハナバチと比べて,ミツバチが開花区画に高い忠誠度を示すのは,より強くリスクを避けようとすること,例えば採餌のためのエネルギーロス,採餌先が劣化する,捕食者に出会うなどの危険を避けたい,そのような選択の結果なのでしょう」とブルネット博士.
「しかし本研究はそれよりもはるか先も示しています.たとえばポリネーターの花粉交配パターンが遺伝子の移動に影響する可能性が考えられます.同一種だが,遠く離れた場所にいた集団の遺伝子プールが混ざる場合などです.
マルハナバチはミツバチよりも元の開花区画に戻る割合が低かったということから,マルハナバチの訪花先は遺伝子流動可能性がより高いのかもしれない.マルハナバチは訪花した植物の遺伝子をより遠距離に移動させそうだ,ということです.自然環境に分布する植物では遺伝子流動頻度が高いほど,彼らの遺伝子多様性が低下し,遺伝子配列が似通ってきます.
ミツバチやマルハナバチのような重要な花粉媒介昆虫がしめす開花区画への忠誠度合いの特性をよりよく理解できるようになれば,養蜂家や農作物生産者,そして保護生物学者がポリネーターの健康を維持しつつ,農業生産で収穫をえるために不可欠な,作物の花粉媒介を担う動物への需要に答え続けられるようにもなるはずです」とブルネット博士は語りました.