columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

12月22日, 2023年

ノースダコタ州の気候と農業 養蜂の背景

ND州の主要農作物生産高Top 10:  ①小麦,②キャノーラ,③コーン.④以下は次ページに.②と③は植物の光合成によりCO 2 を削減できるバイオエタノールの原料として近年作付面積が急増した.土地保全政策として手つかずの草地となっていた広大な土地がキャノーラやコーンの畑に変わって,ミツバチの優良な採餌先が失われている.

日本から旅行客が訪れるような観光地はあまりなくて,ノースダコタについて聞くことは少ないですね.アメリカ人にとってもこの州のイメージは厳しい寒さと低い人口密度らしいです.それにもかかわらず,この州のハチミツ生産量は近年大きく生長して,18年連続の全米第1位を誇ります.ノースダコタ州の養蜂は順調なのでしょうか.

まずその背景を見てみましょう.

気候と農業:ノースダコタは冷涼な乾燥した気候で,グレートプレーンズ/大平原として知られる平坦な地形がひろがる.全ての土壌のうち最も肥沃なモリソルが州全域に分布していることから,北米大陸最大の春小麦地帯として栄えて,大陸横断鉄道の時代からダコタ小麦として広く知られた.

現在でも州の面積の87%を農地が占め,農業は州の主産業である.小麦,キャノーラ,コーン,乾燥豆類,大豆,ビーツなどの農作物は国内有数の生産量で,州の経済活動は農業を中核としており,交通機関も農業のために役立っている.

ND州の主要農作物生産高Top 10:④大麦,⑤乾燥豆類,⑥大豆,⑦甜菜,⑧ヒマワリ,⑨ジャガイモ,⑩畜牛

課題と対策:しかし過重な小麦栽培を続けてきたため,ノースダコタ州は土壌浸食の危険性が非常に高い.このため州全体が土地保全政策の対象となった.

合衆国連邦政府が農地を10年間借り上げることで小麦生産から切り離し,土壌の保全を図るという政策で,水路脇の造作,マメ科植物の植え付け,草の植え付けなどが主体となった.化学肥料や農薬も使わない環境再生型農業である不耕起栽培(耕さない農業)の大規模な取り組みは,国内で需要が高いオーガニック栽培として,アメリカの健康食品市場を支えている.

ナショナルグラスランドは農務省長官によって指定された恒久的な保護地である.東のモンタナ州と接し,南北170km,東西80kmの地域が指定され,4000平方km以上の地域に広がる.