columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

1月26日, 2022年

ガーナのカシューナッツと花粉交配   その2

経験豊富な養蜂家と生態学者のチームがガーナのB f D養蜂開発支援を担います.先進国の養蜂スタイルをそのまま持ち込んでも,途上国の持続的な開発には結びつきにくいことがわかっています.地域の事情に適したシンプルな養蜂技術を現地の人々が習得できるように,そして養蜂から生まれる収益で家計が貧困から脱出できるように,また有用な養蜂技術を村の他の人々にも伝えられるように,継続的な支援活動をしました.

写真はビーズフォーディベロップメント(Bees for Development)発行の季刊誌です.世界各地での養蜂開発支援チームの活動報告や研修資料からの実際的な記事,ミツバチの健康に関するわかりやすい解説,養蜂植物,多数の書評など.英語が母国語でない人にも読めるように配慮された文章で書かれています.

それでは,ガーナでどんな結果がでたのでしょうか.B f Dチームは研修で技能を習得したガーナの上級養蜂家のネットワークを構築し,これらの養蜂家が自分たちの事業を興して市場にハチミツと蜂ロウを出荷する筋道をつけました.またカシュー生産農家が自分の果樹園にミツバチを導入し,巣箱で蜂群を維持できるように研修,指導をしました.

その結果,カシュー農園の生産量は蜂群導入前と比べて50%増加しました.良好な花粉媒介から成長したカシューナッツの品質は向上し,さらにカシューハチミツの収穫というボーナスも獲得.良質なカシューをより多く収穫し,ハチミツも売れるなら,より多くの新たな現金収入が生まれます.カシューの木の開花期間は比較的長いので,すぐそばに蜂群が暮らしていないと,次々咲く花のすべてが良好な花粉媒介を受けられるとは限りません.自分の果樹園にミツバチを導入し,維持できれば,カシュー生産農家とその家族の生計が改善されるだけでなく,増加した生産物の出荷作業など,あらたな仕事を得られる周囲の人々にも大きな利益をもたらします.

ガーナ,東ボノ地区Tuobodomのカシュー生産農家をB f Dチームが訪ねました.この家の婦人に養蜂技術習得と蜂群の果樹園導入の支援をしていたのです.彼女は「今年のカシュー生産量は信じられないくらい増加した,これは園内に置いた70群のミツバチのおかげだ」と話してくれました.写真はカシューの実からナッツ(核果)を取り出しているところ.熟すと赤や黄色になる果実はジューシーですがとても傷みやすく,商品化が難しいのが残念です.