社会性昆虫であるセイヨウミツバチの生物時計は羽化直後には機能しておらず,徐々に発達していくが,同じハナバチでも単独で生活する種類の蜂(Osmia bicornisツツハナバチの仲間)は羽化した時点で,時間をしっかり把握しているとドイツ ビュルツブルグ大学の研究者が報告しました(Front. Cell Dev. Biol., 12 November 2020).アリや人間も出生時には備えていない生物時計を,生長するうちにしだいに確立します.なぜこのような違いがあるのでしょう.
多くの生物は地球が約24時間で自転することで繰り返される明暗周期にその活動を同調させていて,昼間は身体が活動して目が覚めているけれど,夜間には身体を休めてねむります.このような1日周期の生体リズムを体内時計/生物時計/概日リズム/サーカディアンリズムと云います.
ミツバチは社会性昆虫なので,調和のとれたコロニーとして多数の仲間と一緒に暮らしています.女王蜂が蜂児巣房に産卵すると,卵は幼虫,蛹と成長して,ついに羽化した出蜂児が巣房の蓋をかじって開けて,巣房から出てきます.成蜂になった後,見た目に変化はありませんが体の内部では変化が続き,コロニー内での仕事は日齢分業.働き蜂として自分が行う仕事を順番に変えながら生長していきます.
生まれたての出蜂児は寒さに弱く,暗くて暖かなコロニーの中心部にとどまり,巣房の掃除から仕事をはじめます.つぎは育児係として頭部にある2種類の分泌腺からローヤルゼリーを出して幼虫に与え,働き蜂の幼虫には蓄えてある花粉やハチミツも与えます.写真は巣房内の幼虫の世話をする育児蜂です.
このあたりまでは巣内部の暗い場所で行われ,幼虫へのこまめな給餌は四六時中続きます.育児蜂は幼虫の活動にあわせて昼夜関係なしに行動できるように,体内時計の働きを抑えて適応したのだろうと,研究者は考えています.