columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

2月26日, 2021年

ミツバチの生物時計 その1

 社会性昆虫であるセイヨウミツバチの生物時計は羽化直後には機能しておらず,徐々に発達していくが,同じハナバチでも単独で生活する種類の蜂(Osmia bicornisツツハナバチの仲間)は羽化した時点で,時間をしっかり把握しているとドイツ ビュルツブルグ大学の研究者が報告しました(Front. Cell Dev. Biol., 12 November 2020).アリや人間も出生時には備えていない生物時計を,生長するうちにしだいに確立します.なぜこのような違いがあるのでしょう.

多くの生物は地球が約24時間で自転することで繰り返される明暗周期にその活動を同調させていて,昼間は身体が活動して目が覚めているけれど,夜間には身体を休めてねむります.このような1日周期の生体リズムを体内時計/生物時計/概日リズム/サーカディアンリズムと云います.

ミツバチは社会性昆虫なので,調和のとれたコロニーとして多数の仲間と一緒に暮らしています.女王蜂が蜂児巣房に産卵すると,卵は幼虫,蛹と成長して,ついに羽化した出蜂児が巣房の蓋をかじって開けて,巣房から出てきます.成蜂になった後,見た目に変化はありませんが体の内部では変化が続き,コロニー内での仕事は日齢分業.働き蜂として自分が行う仕事を順番に変えながら生長していきます.

生まれたての出蜂児は寒さに弱く,暗くて暖かなコロニーの中心部にとどまり,巣房の掃除から仕事をはじめます.つぎは育児係として頭部にある2種類の分泌腺からローヤルゼリーを出して幼虫に与え,働き蜂の幼虫には蓄えてある花粉やハチミツも与えます.写真は巣房内の幼虫の世話をする育児蜂です.

このあたりまでは巣内部の暗い場所で行われ,幼虫へのこまめな給餌は四六時中続きます.育児蜂は幼虫の活動にあわせて昼夜関係なしに行動できるように,体内時計の働きを抑えて適応したのだろうと,研究者は考えています.