columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

9月29日, 2022年

ミツバチに告げる その3

 こちらはクラレンスハウスにいる2群です.ロンドンのまさに中心部ですが,多くの植物が茂り,巣箱の下はコンクリート,作業用に芝を貼った通路もある恵まれた環境.女王の棺を飾った色とりどりの花はこのクラレンスハウスの庭からも選ばれたそうです.しかしこの美しい巣箱は新国王とご一緒にバッキンガム宮殿に移動するのかもしれませんね.

 ケルト神話でミツバチは現世と天上界をつなぐメッセンジャーでした.何百年もの伝えられてきた「ミツバチに告げる」習わしは,ある家で飼養されていたミツバチは,その家の飼い主の死を知らされず,弔いからはずされると,その罰金としてハチミツ作りをやめてしまう,飛び去っていく,または死んでしまうという迷信から生まれました.養蜂家はその暮らしに起きる重大な出来事,たとえば家族の誕生,結婚,出発,そして帰還などを蜂群に告げます.ケルト文化に根ざすと考えられるこの風習は今日でもイングランド,ウェールズ,アイルランド,スイス,オランダ,フランス,ドイツ,ボヘミア,さらに米国の一部でも民間伝承として活きています.

 私は2005年にアイルランド・ダブリンで開かれたアピモンディア国際会議のために出されたアイルランドの養蜂事情で,Telling the Bees を初めて知りました.会議に参加して聞いた話では,棺が家を出るときに,巣箱の向きを変えたり巣門を閉じて,蜂が葬列を見ないように,後を追って飛び出さないようにするとのことでした.

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 またこちらの写真は英国養蜂雑誌 Bee Craft の 8月号から取り出しました.見出しはまさに Telling the Bees. カール・ショーラーさんという著名な養蜂家/著者/出版者の死亡を,多数の関係者からの追悼の言葉とともに伝えています.
ミツバチに告げるという風習を英国養蜂家は皆さん日常的に知っているようですね.