columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

7月20日, 2020年

ハチミツを傷口に その3 創傷への適用

 ハチミツは古くから,ヨーロッパ,エジプト,インド,中国と世界中で伝統的な医薬として使われてきました.私は2001年にイギリス IBRAから出版された Honey and Healing の日本語版「ハチミツと代替医療」にかかわったので,世界各地で進められていたハチミツの医学的臨床研究を知りました.
マヌカハニーだけでなく,やけどやなおりにくい潰瘍の治療,ハリナシバチハチミツで白内障治療など,大変興味深い内容ばかりでした.

 「ハチミツと代替医療」執筆者のひとりでもある,カーディフメトロポリタン大学の Rose Cooper 教授がマヌカハニーの創傷治療薬としての働きについて総論を書いています.
 https://uk.advancismedical.com/uploads/files/documents/resources/UK/Cooper-Gray.pdf
 いまも創傷治療のためのハチミツ利用が注目されています.ハチミツが複雑な創傷を効果的に治癒させるとの科学的裏付けが多くの研究で示されました.潰瘍などの複雑な傷では細菌が大暴れし,通常の手法ではいつまでも直りにくいことがあるからです.このような傷では複数種の細菌がバイオフィルムと呼ばれる,自ら生成した粘液基盤中に混在しており,これに対しては強力な局所的に効果を上げる抗生物質の投与が不可欠なのです.研究者等はハチミツこそがその対策に最適な選択肢のひとつであるとの結果を得てきています.
 「大部分の抗生物質は創傷の治癒速度を遅くしますし,傷口の細胞にダメージを与えます.ところがハチミツでは,殺菌を行いつつ,傷口をケロイドにすることなく,元の状態への治癒を進めていくのです」と,カーター博士は述べました.
 私は10年ほど前に指を熱湯でやけどをしました.流水で十分に冷却したあと,手元のハチミツを塗って,ガーゼと油紙でカバーしてみました.ハチミツでホンワリ包まれると痛みがありません.数日そのままで良いのですが,だんだんハチミツがしみ出して汚れが目立つので,ガーゼ交換をします.水ぶくれのあとはとても生き生きとしていて,みずみずしく,乾いてぴりぴり痛くなど,全くなりません.やがて治癒すると本に書いてあったとおり,元の指の皮膚がそっくり再現され色素沈着もなく,完璧でした.ハチミツのやけどへの利用方法を知っていて本当に恵まれました.