columnひとみの本棚

おだやかな陽ざしの中、元気に飛び戻ってくるミツバチの羽音を巣箱のそばで聞いたことがありますか? ミツバチやその他のハナバチ類は、日本はもとより世界の多様な自然の中で、その環境を保全し、人々の暮らしを豊かにする働きを担っています。
「Harmony on Diversities」いろいろな植物と動物が、本来のいき方をつづけ、豊かに持続的に、響きあいながら命をつないでいける環境。ミツバチもそんな環境を求めています。ヒトとの関わりがどの昆虫よりも長く多様な、ミツバチとその養蜂について考えてみましょう。

榎本ひとみ
アジア養蜂研究協会(AAA)設立時より21年間事務局コーディネーターを務め、アジア各国(オセアニア、中東を含む)で1994年より隔年開催された大会の準備などで、各国関係者と交流、多様な養蜂事情を学んだ。現在は役員。またAAA会報「Bees for Development Journal」や玉川大学ミツバチ科学研究センター発行の季刊誌「ミツバチ科学」などを通じて、欧米の関係組織とも交流、国際養蜂協会連合(APIMOMDIA)国際養蜂会議に数回出展、参加した。

11月07日, 2022年

カナダ オンタリオ州のミード その1

「ミード (ハチミツ酒) はシードル,ワイン,さらにビールと比べられることもありますが,よく考えてみれば,まったく独特な製法で造られる酒といえます.ミードとは実に幅広く多様な,ハチミツをベースにしたアルコール飲料なのです.」
カナダ オンタリオ州のミード酒造協会 OMMA が醸造する多彩なミードを Ontario Beekeepers’ Association のニュースレターが紹介しました.photo: © Sara May, Lost Meadows Meadery

オンタリオ州にはカナダの首都オタワとカナダ最大都市/州都トロントがあり,人口はカナダ最多です.その東部がケベック州,南部が米国五大湖地域に隣接し,主要観光地であるナイアガラ地域を取り囲む州南部に住民の90%以上が暮らします.
OMMA会員の醸造所も南部地域に点在(記事最後にリストあり).

「オンタリオ ミード酒造協会 OMMA が守る製法では,地元の巣箱から直送されたオンタリオのハチミツに,上質な水(と,酵母を添加する場合もあり)を加えて,ゆっくり静かに発酵させていきます.なあんだ,簡単じゃないかと思われましたか?
しかし実際には確固とした熟練の技が求められる仕事なのです.」

 

日本には米から造る清酒など,すばらしい醸造酒の世界があるので,ニホンミツバチを飼う伝統養蜂で,ハチミツ酒がひろくつくられたことはないようです.でも古代世界の多くの文明でハチミツを発酵させた酒,ミードが重用されました.砂糖がきわめて入手困難だった世界では,だれもがハチミツの強い甘みと,甘い酒に引き寄せられたでしょう.

ミードの基本成分はハチミツ,水,それに酵母です.ハチミツには単糖類が多く含まれており,水で薄めると発酵しやすく,ホップやブドウを入手できない時代や場所でも,ミツバチが自然界から持ち帰ったであろう野生酵母の力を借りて,アルコール飲料が作れました.ミードは世界最古のアルコール飲料とも考えられていて,中国,河南省の紀元前7世紀新石器時代の遺跡で,壷の中でハチミツ,米,果物をまぜて発酵した飲み物の痕が見つかっているそうです.

ギリシャ,ローマ,バイキング,ロシア,ポーランドからエチオピアまで,歴史のある時点でミードを飲んでいて,聖書をはじめ,アリストテレスや8世紀の古英語詩ベオウルフでも言及されています.私が愛読する英国歴史ミステリー,「修道士カドフェル」シリーズは12世紀前半が舞台ですが,ここでもミードが愛飲されています.

写真は2005年アイルランド・ダブリンで開かれたアピモンディア2005の思い出の品です.シャノン空港からアイルランドを去る前日に訪れたBunratty Castle and Folk Park で,このミードの小瓶を見つけたときは舞い上がりました.バンラッティ城はアイルランドに侵入したデーン人の拠点だったそうです.まさにカドフェルの時代.
経年でミードの色がかなり濃くなっています.